インプラント治療のトラブルと対応

インプラント治療は現在多くの歯科医院・大学病院で非常に多く行なわれています。そして残念ながらトラブル(失敗や問題点)も報告されています。きちんとした知識と技術に基づいてインプラント治療は行なわれないと大きなトラブルや失敗になってしまいます。ここでは、大きなトラブル・失敗になる前にきちんと対応できるように歯医者も一緒になって確認してみましょう。

[1]インプラント手術後、1週間経過しても疼痛(痛み)が持続している。

インプラント手術後の痛みは反応性炎症が主で、通常一過性のものです。手術の大きさ範囲等によりますので、一概には言えませんが、術後1週間を経過しても疼痛(痛み)が持続している場合は、手術部位の感染、あるいは隣在歯とインプラントが近接し、歯根膜炎様の疼痛(痛み)を邪気していることを考えます。

★ 対応

  • 手術部位の排膿、膿瘍形成等の術後感染所見の確認
  • 血液検査による急性炎症所見の確認
  • エックス線画像の確認
     臼歯(奥歯)であれば
     ・・・下顎は神経損傷の確認
     ・・・上顎はサイナス(上顎洞)穿孔の確認
  • インプラントと隣在歯の関係・・接触あるかの確認
  • 心因性疼痛(痛み)の確認

★ 歯科医院・大学病院(歯医者)サイドの予防策

細菌感染対策と手術部位の解剖学的構造の充分な把握

慢性感染巣
インプラント埋入手術処置部位の近くの慢性感染巣(根尖病巣、歯周病、上顎洞炎など)の存在は、インプラントへの感染や感染病巣の急性転化等を引き起こし、化膿性炎症による疼痛(痛み)の原因となります。感染病巣はインプラント処置手術前に治療をしておくことが原則です。
術後感染予防
インプラント埋入手術は人工物を生体に埋め込む治療であり、通常の創傷治癒と比較し創閉鎖を遅らせる傾向にあります。したがって軟組織が治癒するまでの期間(5〜7日間)は予防的抗菌薬の投与が必要です。抗菌薬の種類は抜歯等の小手術に準じて選択します。歯科医院(歯医者)サイドは患者さんが服用しないことも想定すべきです。現在、ジスロマック等は短期間の服用で長期間の効果が得られます。特にジスロマックSRは1回の服用で1週間の効果があります。このようなことも考えてくれる歯科医院(歯医者)は、患者のために優しいといえます。
解剖学的構造物の把握
インプラント周囲の解剖学的構造物(下歯槽神経、上顎洞、隣在歯)と予定するインプラントとの三次元的位置関係をレントゲン、模型等で充分に確認しておくことが必要です。

[2]インプラント術後7日目に抜糸しようとしたところ、創が一部裂開しており白く歯肉壊死もみられた。

糖尿病患者で、インプラント埋入部直上に創閉鎖不全を認めます。同部は粘膜の発赤とフィブリンの層がみられます。
創閉鎖不全部は薄い上皮で覆われ粘膜の治癒としては正常者と比べて10日ほど遅れます。

★ 対応

  • 感染防止を行なって二次治癒を待ちます。 ・抜糸によって創の裂開が予想され、創の裂開が拡大しそうな場合には、抜糸を延期し、さらに数日間治癒を待ちます。
  • インプラント埋入部への義歯の(入れ歯)の使用は軟組織の治癒まで控えてもらいます(2〜3週間程度)。
  • 義歯(入れ歯)を使用する場合には、粘膜面を削除しティッシュコンディショナーを使用します(ティッシュコンディショナーは汚れが付着しやすいので2週間に1回の割合で交換します)。
  • 頻回な洗口(うがい)を繰り返し、肉芽組織の形成と創の上皮化を待ちます。創の列開部または壊死部から細菌感染が拡がらないように頻回の洗口(うがい)を指示し、抗菌薬を投与します。

★ 歯科医院・大学病院(歯医者)サイドの予防策

全身疾患の充分なコントロール、マットレス縫合等の応用による創の確実な閉鎖。

  • 創傷の治癒が遅れるような貧血、糖尿病等の全身疾患をもつ患者さんでは、良好なコントロールが得られてからインプラント治療を行ないます。 ・ インプラント埋入部の義歯(入れ歯)の使用はできるだけ避け、義歯を使用する場合は、充分な調節が必要です。
  • 縫合時に手術部位に無理な力がかからないように、減張切開を応用します。
  • 創縁の確実な閉鎖が特に必要な場合(骨移植やGBR等)は、垂直マットレス縫合を行ないます。
  • 縫合不全が生じた部位の創傷治癒は二次治癒呈します。肉芽組織の形成を待つ必要があり、治癒までに時間がかかり頻回の洗浄を要します。
  • 創の裂開や感染は、インプラント周囲の骨吸収を発見するため、エックス線写真で埋入部の骨吸収の有無を確認します。

[3]インプラント埋入手術後、細菌感染した。

コントロールされていない糖尿病があり、化膿性炎症が重篤化したと考えられる時など。

★ 対応

  • インプラント手術後に細菌感染を起こしたら、通法通り消炎手術を行い、インプラントについては経過観察を行ないます。
  • インプラント手術後3日程度経過してから、いったん消退した術後の腫脹(腫れ)・疼痛(痛み)等が再度出現し、さらに強い急性炎症所見があるときは、消炎手術を行ないます。
     >>> 炎症のスクリーニング検査を行ない、消炎手術を行ないます。
     >>> 抗菌薬(セフェム系、ペニシリン系など)の投与
     >>> ドレナージ、頻回の創洗浄(ドレーン除去までは毎日洗浄)
  • 経過観察:エックス線写真でインプラント周囲の骨吸収状態を診査します。オッセオインテグレーションが失われている場合には、早期にインプラントを除去します。

★ 歯科医院・大学病院(歯医者)サイドの予防策

  • 易感染性の病態(糖尿病、ステロイドあるいは抗悪性腫瘍薬等の使用等)をもつ患者さんの場合、それぞれの病態が良好にコントロールされていることが前提です。糖尿病はHbA1cが6.5%以下にコントロールされていることが望ましいです。また、プレドニン等のステロイド服用している患者さんでは、主治医との対診のうえ、術前からの抗菌薬の投与が必要となることが多いです。また、多くの悪性腫瘍薬は骨髄抑制により易感染状となっている可能性が高いです。高悪性腫瘍の治療が終了し、かつ骨髄抑制の状態から回復していることが必要です。
  • 外科の基本原則にそった無菌的な処置、操作を心がけます。手術環境整備は感染対策として重要で、ガウンテクニックや清潔・不潔区域の厳密な区別、器具滅菌の徹底、術野の充分な清掃・消毒(術前のスケーリング、口腔内消毒、顔面消毒等)が必要です。
  • 硬い骨(皮質骨)へのインプラント埋入骨形成は、オーバーヒートに注意します(骨が壊死します)。インプラント骨形成時のオーバーヒートにより骨壊死を生じ、さらに同部に感染をきたすことがあります。これを防ぐためには決められたエンジンの回転数の順守、注水による冷却、切削効率のよいドリルの使用等、注意深く丁寧なインプラント骨形成が必要です。
  • 創縁の閉鎖は縫合時に手術部位に無理な力がかからないように、減張切開や垂直マットレス縫合の手技を応用し確実に行います。
  • インプラント埋入手術、骨移植後は充分な抗菌薬の投与(数日間)や頻回の経過観察を行ないます。移植骨は感染源になりやすく、またインプラント治療は人工物を生体内に埋入する方法であることをふまえ、確実な創の閉鎖や充分な抗菌薬の投薬等の術後感染対策が必要です。

[4]インプラント埋入手術後、隣在歯の根尖病巣が急性転化した。

隣の歯に病巣がある場合、インプラント埋入前に感染根管処置あるいは抜歯をしておくことが原則です。

★ 対応

インプラント埋入手術後、隣在歯の根尖病巣が急性転化したら、インプラントとの位置関係を精査し、根管治療を行ないます。

  • 感染拡大防止のために抗菌薬を服用します。
  • 感染根管処置をすすめます。
  • インプラントと根尖病巣との位置関係をレントゲン等で確認します。
  • 接していればインプラント除去します。
  • 接していない場合、感染根管処置を継続するか、保存できない場合は抜歯をすすめます。

★ 歯科医院・大学病院(歯医者)サイドの予防策

インプラント埋入予定部位に近接する歯に病巣がある場合、事前に(インプラント埋入前に)感染根管処置あるいは抜歯をしておきます。

  • 原則として根尖病巣がある歯の近くにインプラント埋入は行ないません。
  • 根尖病巣がある歯の近くへのインプラント埋入は、感染根管処置が確実に終了してから行ないます。感染根管処置が完了した場合でも、再感染の可能性はあり、このような場合の隣接するインプラントへの影響については患者さんに充分に説明しておきます。また、再感染で抜歯に至った場合の追加インプラント費用(価格、コスト)と期間についても同意を得ておくことがとても大切です。
  • 根尖病巣の治癒の見込みがない場合には、患者さんへの説明と同意の上、抜歯を行ないます。
  • インプラント埋入手術前に患歯の将来的な再感染のリスク、隣接インプラントの予後に対するリスクを患者さんに説明します。
  • 感染根管処置終了後にインプラントを埋入し、その後、患歯に再感染をきたした場合は、抗菌薬の投与と感染根管処置を行って感染の拡大を防止して再度保存の可否を判断します。

[5]インプラントにアバットメントを連結後に痛みがある時

1次手術としてインプラント埋入手術。その後2次手術としてアバットメント装着します。これ以降患者さんが持続的な痛みを訴えています。レントゲンで確認すると、埋入が深いためインプラントより径が太いアバットメントが骨に強く接触していることが疑われました。

★ 対応

アバットメントの形態やサイズを変更します。

  • 一過性の痛みであれば、歯肉の干渉が考えられます。
    歯肉貧血(歯ぐきが白くなります)が10分程度で取れれば問題ありません。歯肉貧血が10分以上残る場合はアバットメントの形態、サイズの変更を検討します。
  • 持続性の痛みがあれば、骨の干渉を疑います。エックス線で確認します。アバットメントの形態、サイズを変更するか、骨の形態修正を行います。

★ 歯科医院・大学病院(歯医者)サイドの予防策

アバットメント装着時に抵抗を感じたら無理に装着をしません。干渉の程度をレントゲン等で確認します。

  • 麻酔しているので患者さんは自覚症状がありませんので、注意が必要です。
  • 歯肉の貧血状態を確認します。
  • 既製アバットメントの場合は、サイズを適宜変更します。
  • カスタムアバットメント(オーダーメイドアバットメント)の場合は、形態を修正します。
  • アバットメント装着時はエックス線での確認をします。
  • アバットメント装着手術(2次手術)には、サイズを考慮した骨の形態修正が必要です。

一般的にアバットメントはインプラントよりも直径が大きいため、周囲組織の干渉を受けやすいのです。特に骨縁下に連結機構をもつシステムでは、骨の干渉を受けやすいです。インプラント埋入深度や隣在歯との距離に大きく影響するので、注意が必要です。
埋入深度が深い場合は、アバットメント連結時に周囲骨の削除がより多く必要となります。またインプラントが隣在歯と近接している場合には骨の削除を充分に行うことができず、既製のアバットメントの連結は困難となることがあります。

アバットメント連結時に強い抵抗を感じたにもかかわらず、無理に装着を行うと痛みが発現し、放置すると強い圧迫で歯肉の壊死やインプラントの動揺、脱落を引き起こすことがあります。
アバットメントスクリュー締結時に無抵抗に締結できるかを確認し、エックス線検査で適合状態を確認します。 インプラントの失敗の原因として、生体力学的な側面からインプラントに対する持続的な側方力の関与が挙げられます。持続的な側方力は通常、歯ぎしりやくいしばり、噛み合わせに関連して生じる場合が多いですが、インプラントのアバットや上部構造の適合精度不良な場合もインプラント-骨界面に持続的な応力を生じる原因となります。

インプラントアバットメントや上部構造のパッシブフィットが得られていない場合、応力は固定源であるインプラント-骨界面に集中することになります。インプラントと既製のアバットメントとの連結は周囲の軟組織や骨の干渉がなければ、パッシブフィットを得て連結させられます。

[6]インプラントが動いているとの患者さんからの訴え

装着後約1週間で上部構造の動きを自覚し、アバットメントの緩み等が疑われました。

★ 対応

すぐに来院していただきます。

  • 深部疼痛を訴える場合は骨結合の喪失を疑います(ノンインテグレーション)。
  • 疼痛がなく動きの小さい時は、  →セメント固定式の場合、再仮着  →スクリュー固定式の場合、再締結
  • 疼痛があり動きが大きい場合は、上部構造ではなく、アバットメントが緩んでいる事もあります。
  • いずれにしてもエックス線等で周囲の骨の状態を確認します。
  • 最大のトラブルはインプラントが骨とのインテグレーションが損なわれる事です。ただ骨との結合が失われているインプラントを放置するのもよくありません。周囲の骨吸収につながるからです。駄目なものは早急に取り除きましょう。

★ 歯科医院・大学病院(歯医者)サイドの予防策

  • 埋入したインプラントの状態を術者はしっかりと把握しておきます。骨との結合が初期固定の段階で弱ければ、今後トラブルになる事も予想します。
  • インテグレーション時に既に深い歯周ポケットが一部存在しているなど、も経過観察のうえで非常に大切です。
  • アバットメントは既定の力(N・ニュートン)で締めましょう。
  • 同様にスクリュータイプの上部構造も既定の力で締めましょう。
  • 上部構造のセット後に必ずレントゲンを撮ります。適合状態の確認と共に今後起こりうるトラブル時の基準となるレントゲンとします。
  • 定期健診は必ず受けてもらいましょう。
    口の中の汚れを落とすだけでなく、咬合状態の確認も忘れずにしましょう。
    インプラントは全く動きませんので、天然歯のような微調整を自分ではできません。

[7]インプラントの周りから血が出ているという患者さんからの訴え

歯ブラシの時に出血が毎回あります。歯ぐきを指で押さえても血が出てきます。

★ 対応

ポケットの深さを確認します。
3o以内なら、全体的なクリーニング。
4〜5oなら、消毒液による局所洗浄、含嗽。上部構造を外した洗浄。当日再度装着して問題ないことが多い。
5o以上なら、インプラント周囲炎と診断します。インプラント周囲炎の治療を施します。


★ 歯科医院・大学病院(歯医者)サイドの予防策

  • ブラッシング指導を徹底しましょう。 インプラントは保険の利かない高額な治療です。患者さんも今度は大事にしようと考えている人がほとんどです。是非に意識が高い時に今後のメインテナンスについてゆっくりと話し合っておきましょう。
  • 定期健診は必ず受けてもらいましょう。
    口の中の汚れを落とすだけでなく、咬合状態の確認も忘れずにしましょう。
    インプラントは全く動きませんので、天然歯のような微調整を自分ではできません。

[8]インプラントの周りが腫れているという患者さんからの訴え

インプラント周囲の腫脹と排膿を繰り返しています。最近では何もしなくてもズキズキします。

★ 対応

  • 全体的なクリーニングを行います。
  • 上部構造を外して、消毒と洗浄を行います。
  • 抗菌剤・消炎剤の投薬をします。
  • 骨欠損が大きい時には、最大のトラブルとしてインプラントの除去もありえます。

★ 歯科医院・大学病院(歯医者)サイドの予防策

  • ブラッシング指導を徹底しましょう。 インプラントは保険の利かない高額な治療です。患者さんも今度は大事にしようと考えている人がほとんどです。是非に意識が高い時に今後のメインテナンスについてゆっくりと話し合っておきましょう。
  • 定期健診は必ず受けてもらいましょう。
    患者さんが毎日、歯ブラシを頑張っていても、やはり専門家に綺麗にクリーニングしてもらった方が清潔になり良好な状態を維持できます。
    また、口の中の汚れを落とすだけでなく、咬合状態の確認も忘れずにしましょう。
    インプラントは全く動きませんので、天然歯のような微調整を自分ではできません。咬合が原因で骨欠損していくケースもあります。0.1oのズレが将来大きなリスクやトラブル(失敗)になります。

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