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チタンは、ゴルフのチタンドライバーや眼鏡のフレームなど身近なところで使われている馴染み深い金属です。 元素番号22・元素記号Tiです。
地球の地殻の成分としては9番目でそれほど稀少という金属ではありませんが、単体として発見されるのには時間がかかっています。
最初はイギリスで1791年に発見されました。その後1795年にドイツで正式に発見され、ギリシャ神話の地球上最初の子供である『タイタン』にちなんでと名づけられました。
チタンはプラチナとほぼ同等の強い耐食性があり、常温常圧では酸にも塩分にもほとんど反応しないので錆びつかないのです。鋼鉄と同じ強度があるのに45%の重量しかないのです。軽い金属として知られているアルミニウムと比べても、60%の重さで強度は2倍あり、その上金属疲労もしづらいのです。

発見されてから200年以上経過しているのになかなか利用がすすまなかったのは精製技術が確立されるのに時間がかかったのと加工技術が困難であったためです。
多くの特性を生かして、アルミ・銅・鉄・マンガン・などと合金を作り、ロケットや戦闘機等にも利用されています。軽くて丈夫で、変化しにくいのがチタンなのです。だから、チタンのメガネフレームは軽いし、汗などにも強いのです。

その上、体との相性も良いのです。
例えば二酸化チタンは皮膚を保護する働きをもつので、日焼け止めに使われています。このように生体と親和性があるのもチタンの特性なのです。
こうした様々な機能のあるチタンが、人工歯根や人工関節、人工の耳、頭蓋骨の代替品として使われるようになったのは、ある研究者の実験なのです。
1952年スェーデンのイエテボリ大学の整形外科医で解剖学者であるブローネマルク博士が骨髄の機能について研究をスタートさせました。この実験で起こった偶然が、現在の生体向けインプラント利用の礎になっているのです。


整形外科医のブローネマルク博士は骨の治癒の原理を研究していました。
どうして骨折した骨が再びくっつくのか、その治癒がどのように行われているかを解明しようと多くの実験を行っていました。
骨の内側は空洞で、その中は骨髄で満たされている。その中を多くの血管が通っています。博士はこの細い血管の中を赤血球や白血球などがどのように循環しているかを研究(マイクロ・サイキュレーション)していました。
最初にウサギを使ってマイクロ・サイキュレーションを確認する研究を行いました。骨の中の血流を調べるために骨に小さな顕微鏡を取り付けました。このレンズを覗いて血流を観察しようと考えました。このレンズを固定する金属に以前は金や真鍮を用いていましたが、生体に馴染みやすい性質をもつチタンを用いました。

骨の中には骨髄があり、その中には太い血管が通っている血流がある。骨髄の周囲には硬い皮質骨があり、骨の形態を維持しているのが観察できました。これにより、骨の中の細胞は、大きな血管から白血球や血小板を取り込んでいて、骨が折れると、骨膜の細胞と骨の中にある血管網によって治癒することが分かりました。観察終了後、レンズを外そうと試みると全く外れませんでした。骨とチタンが結合して同化しているのが観察されました。博士は外れないという特質を、何かに使えないかと考えました。骨の再生の原理を究明するという実験から、チタンと生体の意外な関係が明らかになったのでした。